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#8 「心の時代 1」 悩めるMR

#8 「心の時代 1」 悩めるMR

 

私は、ある本と出会い。「心の時代」という本。

 

何回も転勤しているうちに捨てたようだ。だが、私も

そう予感していたのだ。

 

数軒に1台しかなかった電話。これが我が家にも届き、

洗濯機、冷蔵庫、お風呂が出来、

TVがついに来た。

 

今なら、100万円位の値段だっただろう。

 

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巨人戦を見て、プロレスに熱狂していた。

戦争で何もない国がもの凄いスピードで物質文明に入り、

 

天体望遠鏡を買ってもらい、顕微鏡も。

 

とにかく物を買うことが美徳の時代。

必ず給料は上がるのでローンを組んで物を買う。

 

北海道生まれの私が、東京の大学へ。

 

東京モーターショーに毎年通い、

ソニービルでステレオを聞きまくり。

 

就職して、ローンを組みステレオを買い、

車も買った。

 

止めどない欲望。

 

もっと言い車が買える年収が欲しい、

そしてキャッシュでクラウンを買い。

 

このころから、物への満足度が変化してきた。

 

そして、心の時代が来るのである。

 

AIは進化するがそこには「愛」がないことに

気づいていくのであろう。

 

「心の時代」が待っている。

 

75歳の後期高齢者の人も

後、25年も生きられる時代がくるが、

 

75歳の時に「愛」が無い人はどうなるのだろう。

 

前置きが、長くなりましたが「心の時代」とMR&営業マンに

ついて連載していきます。

 

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コミュニケーションに結論はいらない。

 

結論が必要なのは、戦争とビジネスだけです。

 

伊藤守氏著

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ドクターにとっても、お客様に

とっても「感動」を買いたいのである。

 

勿論効果や副作用の少なさも必要であるが、

ドクターは「感動」を待っている。

 

 

お世話したり「神様と奴隷」に

なるのではない。

 

「感動」を売る。

 

ドクターとMRのゴールが同じになり、

新しい共通の物を用意出来れば、ドクターは

「わくわく」してくる。

 

そして、あなたはこの成功体験で

一気に成長してくる。

 

そこには訪問回数や、コール回数は

処方量とは相関しなくなり、

ドクターは感動しながら患者さんにあなたの製品を

使うようになるのである。

 

 

私は今、寝る前にレアル・マドリードに入った

久保選手の動画を見ている。

 

 

あの角度からもゴールするし、

フリーキック簡単に決めてしまう。

 

日本サッカー界の天才である。

 

 

私がドクターなら、久保選手の話しが

出来たら「感動」すすだろう。

 

 

しかし、ここで考えて欲しいのは

各社ともこの話しをし始めると「感動」

しなくなるが、あなたとだけなら楽しい時間が過ごせる。

 

 

そして「我が社の○○は糖尿病治療のの

久保選手です」

 

なんでなの?

 

こう、どくたーから聞きたいと思わせてから

話せれば、ドクターは納得してしまう。

 

 

ここで知識が必要になり、ベネフィットが

必要になり、クロージングが必要になってくる。

 

これが出来れば「感動で」処方が

自然にでるようになる。

 

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昨日、ニュースで山形のデパートが

倒産した話の中で、お客の意見の中に

「店員がうるさい」「いらつく」というのが

 

あったが、私なら店員を教育して

感動で売るように出来るのに、

なんで指導できない会社が多いのだろう。

 

まか不思議である。

 

売り上げをノルマにしているから

そうなるのだろうが、ノルマをこなすには

「感動」を売る訓練がひつようなのに、

出来ない。

 

簡単な話なのにね。

 

だから、心の充実感をいかに満たすか?

 

それには、ドクターの情報が

必要なんだけど、

 

先日、ある人からこんな

質問を受けた。

 

「ドクター毎のライバルメーカーの

使用料を知るにはどうしたらいいですか?」

 

私は「ドクター本人から聞けば」

 

彼は、あきれた答えだったようで、

なんとなく電話が切れた。

 

 

私の思考回路だと、Aドクターは

Bメーカーのが5000錠処方。

 

というのが、薬剤部から教えてもらって、

次ぎに何をするの?

 

ドクター本人から聞けないよわいさなら、

調べても意味がないと思いませんか?

 

 

僕が、ドクターならBメーカーの製剤も

好きだし、MRも気にいっている。

 

それを薬剤部から情報をもらい

攻撃してくるなんて、2度と合わないけどね。

 

 

この、人の心を理解せず支店アクションで

重要20名ドクターの処方状況をしらべろと

言われたから調べている。

 

 

すべて自分→なんだよ、

 

だからAドクターに感動してもらい、

BメーカーではなくCメーカーの物から

切り替えるしかないくらい自分は弱い。

 

これを知らない。

 

あきれてしまった。

 

人は、感動した事は忘れない。

 

初めてサグラダファミリアを見た時の

感動は忘れられなかった。

 

綺麗だし、あと200年も完成までに時間が

かかるんだよ。

 

この200年にも感動したが

家族と行った時はあと10年で完成しますと・・・

 

 

興奮が消えてしまいましたね。

 

 

 

是非、これを読んで下さい。

 

涙が、止まらない話しです。

 

一杯のかけそば(栗良平、1988年、栗っ子の会)

 

 この物語は、今から15年ほど前の12月31日、

札幌の街にあるそば屋 「北海亭」での出来事から始まる。

 

 そば屋にとって一番のかき入れ時は大晦日である。

 

 北海亭もこの日ばかりは朝からてんてこ舞の忙しさだった。

 

 

いつもは夜の 12時過ぎまで賑やかな表通りだが、

夕方になるにつれ家路につく人々の足 も速くなる。

10時を回ると北海亭の客足もぱったりと止まる。

 

 頃合いを見計らって、人はいいのだが無愛想な主人に代わって、

常連客か ら女将さんと呼ばれているその妻は、忙しかった1日をねぎらう、大入り袋 と土産のそばを持たせて、パートタイムの従業員を帰した。

 

 最後の客が店を出たところで、そろそろ表の暖簾を下げようかと話をして いた時、

入口の戸がガラガラガラと力無く開いて、2人の子どもを連れた女 性が入ってきた。

6歳と10歳くらいの男の子は真新しい揃いの

レーニン グウェア姿で、女性は季節はずれのチェックの半コートを着ていた。

 

 「いらっしゃいませ!」  と迎える女将に、その女性はおずおずと言った。

 「あのー……かけそば……1人前なのですが……よろしいでしょうか」

  後ろでは、2人の子ども達が心配顔で見上げている。

 

「えっ……えぇどうぞ。どうぞこちらへ」  暖房に近い2番テーブルへ案内しながら、

カウンターの奥に向かって、 「かけ1丁!」  と声をかける。

 

それを受けた主人は、チラリと3人連れに目をやりながら、

「あいよっ! かけ1丁!」  とこたえ、玉そば1個と、さらに半個を加えてゆでる。

 

 

  玉そば1個で1人前の量である。

 

客と妻に悟られぬサービスで、大盛りの 分量のそばがゆであがる。

 

  テーブルに出された1杯のかけそばを囲んで、

額を寄せあって食べている 3人の話し声がカウンターの中までかすかに届く。

 

 「おいしいね」  と兄。 「お母さんもお食べよ」  と

1本のそばをつまんで母親の口に持っていく弟。

 

 やがて食べ終え、150円の代金を支払い、

「ごちそうさまでした」と頭を 下げて出ていく母子3人に、

 「ありがとうございました! どうかよいお年を!」  と声を合わせる主人と女将。

 

  新しい年を迎えた北海亭は、相変わらずの忙しい毎日の中で1年が過ぎ、

 再び12月31日がやってきた。 

 

前年以上の猫の手も借りたいような1日が終わり、

10時を過ぎたところ で、店を閉めようとしたとき、

ガラガラガラと戸が開いて、2人の男の子を 連れた女性が入ってきた。

 

 女将は女性の着ているチェックの半コートを見て、

1年前の大晦日、最後 の客を思いだした。

 

「あのー……かけそば……1人前なのですが……よろしいでしょうか」

 「どうぞどうぞ。こちらへ」  女将は、昨年と同じ2番テーブルへ案内しながら、

 「かけ1丁!」  と大きな声をかける。 「あいよっ! かけ1丁」  と主人はこたえながら、消したばかりのコンロに火を入れる。 「ねえお前さん、サービスということで3人前、出して上げようよ」

 

  そっと耳打ちする女将に、 「だめだだめだ、そんな事したら、かえって気をつかうべ」

 と言いながら玉そば1つ半をゆで上げる夫を見て、

「お前さん、仏頂面してるけどいいとこあるねえ」  とほほ笑む妻に対し、

相変わらずだまって盛りつけをする主人である。

 

 

 

 テーブルの上の、1杯のそばを囲んだ母子3人の会話が、

カウンターの中 と外の2人に聞こえる。

 

 「……おいしいね……」 「今年も北海亭のおそば食べれたね」

 「来年も食べれるといいね……」  食べ終えて、150円を支払い、

出ていく3人の後ろ姿に 「ありがとうございました! どうかよいお年を!」 

その日、何十回とくり返した言葉で送り出した。

 

 

 商売繁盛のうちに迎えたその翌年の大晦日の夜、

北海亭の主人と女将は、 たがいに口にこそ出さないが、

九時半を過ぎた頃より、そわそわと落ち着か ない。

 

 

 10時を回ったところで従業員を帰した主人は、

壁に下げてあるメニュー 札を次々と裏返した。

今年の夏に値上げして「かけそば200円」と書かれ ていたメニュー札が、

150円に早変わりしていた。

 

 2番テーブルの上には、すでに30分も前から

「予約席」の札が女将の手 で置かれていた。

 

  10時半になって、店内の客足がとぎれるのを待っていたかのように、母

と子の3人連れが入ってきた。

 

 兄は中学生の制服、弟は去年兄が着ていた

大きめのジャンパーを着ていた。

 

2人とも見違えるほどに成長していたが、

母親は色あせたあのチェックの半 コート姿のままだった。

 

 「いらっしゃいませ!」  と笑顔で迎える女将に、

母親はおずおずと言う。

 「あのー……かけそば……2人前なのですが……よろしいでしょうか」

 「えっ……どうぞどうぞ。さぁこちらへ」  と2番テーブルへ案内しながら、

 

 

そこにあった「予約席」の札を何気なく 隠し、

カウンターに向かって 「かけ2丁!」

 それを受けて 「あいよっ! かけ2丁!」 

とこたえた主人は、玉そば3個を湯の中にほうり込んだ。

 

 

  2杯のかけそばを互いに食べあう母子3人の

明るい笑い声が聞こえ、話も 弾んでいるのがわかる。

 

 

カウンターの中で思わず目と目を見交わしてほほ笑 む女将と、

例の仏頂面のまま「うん、うん」とうなずく主人である。

 

 「お兄ちゃん、淳ちゃん……

今日は2人に、お母さんからお礼が言いたいの」

 「……お礼って……どうしたの」

 「実はね、死んだお父さんが起こした事故で、

 

 

8人もの人にけがをさせ迷惑 をかけてしまったんだけど……

保険などでも支払いできなかった分を、

毎月 5万円ずつ払い続けていたの」 「うん、知っていたよ」

 女将と主人は身動きしないで、じっと聞いている。

 

 

「支払いは年明けの3月までになっていたけど、実は今日、

ぜんぶ支払いを 済ますことができたの」 「えっ! ほんとう、お母さん!」

 「ええ、ほんとうよ。お兄ちゃんは新聞配達をしてがんばってくれてるし、

 淳ちゃんがお買い物や夕飯のしたくを毎日してくれたおかげで、

お母さん安 心して働くことができたの。

 

 

よくがんばったからって、会社から特別手当を いただいたの。

それで支払いをぜんぶ終わらすことができたの」

 「お母さん! お兄ちゃん! よかったね!

でも、これからも、夕飯のし たくはボクがするよ」

 「ボクも新聞配達、続けるよ。

 

淳! がんばろうな!」 「ありがとう。ほんとうにありがとう」

「今だから言えるけど、淳とボク、お母さんに内緒にしていた事があるんだ。

 

 

 それはね……11月の日曜日、淳の授業参観の案内が、

学校からあったでし ょう。

 

……あのとき、淳はもう1通、先生からの手紙をあずかってきてたん だ。

 

淳の書いた作文が北海道の代表に選ばれて、全国コンクールに出品され

ることになったので、参観日に、その作文を淳に読んでもらうって。

 

先生か らの手紙をお母さんに見せれば……

むりして会社を休むのわかるから、淳、 それを隠したんだ。

 

 

そのこと淳の友だちから聞いたものだから……

ボクが参 観日に行ったんだ」 「そう……そうだったの……それで」

「先生が、あなたは将来どんな人になりたいですか、という題で、全員に作 文を書いてもらいましたところ、淳くんは、『一杯のかけそば』という題で書 いてくれました。

 

 

これからその作文を読んでもらいますって。

 

『一杯のかけそ ば』って聞いただけで北海亭でのことだとわかったから……

 

淳のヤツなんで そんな恥ずかしいことを書くんだ! と心の中で思ったんだ。 

 

作文はね……お父さんが、交通事故で死んでしまい、

たくさんの借金が残 ったこと、お母さんが、朝早くから夜遅くまで働いていること、

ボクが朝刊 夕刊の配達に行っていることなど……ぜんぶ読みあげたんだ。

 

 

  そして12月31日の夜、3人で食べた1杯のかけそばが、

とてもおいし かったこと。……3人でたった1杯しか頼まないのに、

おそば屋のおじさん とおばさんは、ありがとうございました!

 

 

 どうかよいお年を!って大きな 声をかけてくれたこと。

 

その声は……負けるなよ! 頑張れよ! 生きるんだ よ!

って言ってるような気がしたって。

 

それで淳は、大人になったら、お客 さんに、頑張ってね!

 

 幸せにね!って思いを込めて、ありがとうございま した!

 

 と言える日本一の、おそば屋さんになります。

って大きな声で読み あげたんだよ」 

カウンターの中で、聞き耳を立てていたはずの主人と女将の姿が見えない。

 

  カウンターの奥にしゃがみ込んだ2人は、

1本のタオルの端を互いに引っ 張り合うようにつかんで、

こらえきれず溢れ出る涙を拭っていた。

 

 「作文を読み終わったとき、先生が、淳くんのお兄さんがお

母さんにかわっ て来てくださってますので、ここで挨拶をしていただきましょうって……」

 

 「まぁ、それで、お兄ちゃんどうしたの」

「突然言われたので、初めは言葉が出なかったけど……

皆さん、いつも淳と 仲よくしてくれてありがとう。

 

……弟は、毎日夕飯のしたくをしています。

 

それでクラブ活動の途中で帰るので、

迷惑をかけていると思います。

 

今、弟 が『一杯のかけそば』と読み始めたとき……

ぼくは恥ずかしいと思いました。

 

……でも、胸を張って大きな声で読みあげている弟を見ているうちに、

1杯 のかけそばを恥ずかしいと思う、その心のほうが恥ずかしいことだと思いま した。

 

 あの時……1杯のかけそばを頼んでくれた母の勇気を、

忘れてはいけない と思います。

 

 

……兄弟、力を合わせ、母を守っていきます。

 

……これからも 淳と仲よくして下さい、って言ったんだ」 

 

しんみりと、互いに手を握ったり、笑い転げるようにして肩を叩きあった り、

昨年までとは、打って変わった楽しげな年越しそばを食べ終え、300

円を支払い「ごちそうさまでした」と、深々と頭を下げて出て行く3人を、

主人と女将は1年を締めくくる大きな声で、

「ありがとうございました! どうかよいお年を!」  と送り出した。

 

 また1年が過ぎて――。 

北海亭では、夜の9時過ぎから「予約席」の札を

2番テーブルの上に置い て待ちに待ったが、あの母子3人は現れなかった。

  次の年も、さらに次の年も、2番テーブルを空けて待ったが、

3人は現れ なかった。

 

 北海亭は商売繁盛のなかで、

店内改装をすることになり、テーブルや椅子 も新しくしたが、

あの2番テーブルだけはそのまま残した。 

 

真新しいテーブルが並ぶなかで、1脚だけ古いテーブルが中央に置かれて いる。

 

 「どうしてこれがここに」  と不思議がる客に、主人と女将は

一杯のかけそば』のことを話し、この テーブルを見ては自分たちの励みにしている、

いつの日か、あの3人のお客 さんが、来てくださるかも知れない、

その時、このテーブルで迎えたい、と 説明していた。

 

 

 その話が「幸せのテーブル」として、客から客へと伝わった。

 

わざわざ遠 くから訪ねてきて、そばを食べていく女学生がいたり、

そのテーブルが、空 くのを待って注文をする若いカップルがいたりで、

なかなかの人気を呼んで いた。

 

 それから更に、数年の歳月が流れた12月31日の夜のことである。

 

北海 亭には同じ町内の商店会のメンバーで

家族同然のつきあいをしている仲間達

がそれぞれの店じまいを終え集まってきていた。

 

 

北海亭で年越しそばを食べ た後、除夜の鐘の音を聞きながら

仲間とその家族がそろって近くの神社へ初 詣に行くのが

5~6年前からの恒例となっていた。

 

 

 この夜も9時半過ぎに、魚屋の夫婦が刺身を盛り合わせた

大皿を両手に持 って入って来たのが合図だったかのように、

いつもの仲間30人余りが酒や 肴を手に次々と北海亭に集まってきた。

 

「幸せの2番テーブル」の物語の由来 を知っている仲間達のこと、

互いに口にこそ出さないが、おそらく今年も空 いたまま新年を迎えるであろう

「大晦日10時過ぎの予約席」をそっとした まま、窮屈な小上がりの席を全員が少しずつ身体をずらせて遅れてきた仲間 を招き入れていた。

 

 

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  海水浴のエピソード、孫が生まれた話、大売り出しの話。

 

賑やかさが頂点 に達した10時過ぎ、入口の戸がガラガラガラと開いた。

幾人かの視線が入 口に向けられ、全員が押し黙る。

 

 

北海亭の主人と女将以外は誰も会ったこと

のない、あの「幸せの2番テーブル」の物語に出てくる薄手の

チェックの半 コートを着た若い母親と幼い二人の男の子を誰しもが想像するが、

入ってき たのはスーツを着てオーバーを手にした二人の青年だった。

 

 

ホッとした溜め 息が漏れ、賑やかさが戻る。

 

女将が申し訳なさそうな顔で 「あいにく、満席なものですから」

  断ろうとしたその時、和服姿の婦人が深々と頭を下げ入ってきて

二人の青 年の間に立った。

 

店内にいる全ての者が息を呑んで聞き耳を立てる。

 

 「あのー……かけそば……3人前なのですが……よろしいでしょうか」

 

  その声を聞いて女将の顔色が変わる。

 

十数年の歳月を瞬時に押しのけ、あ の日の若い母親と幼い二人の姿が

目の前の3人と重なる。

 

カウンターの中か ら目を見開いてにらみ付けている

主人と今入ってきた3人の客とを交互に指 さしながら

 「あの……あの……、おまえさん」  と、おろおろしている女将に青年の一人が言った。

 

 

 「私達は14年前の大晦日の夜、

親子3人で1人前のかけそばを注文した者 です。

 

あの時、一杯のかけそばに励まされ、

 

3人手を取り合って生き抜くこ とが出来ました。

 

その後、母の実家があります滋賀県へ越しました。

 

私は今 年、医師の国家試験に合格しまして

京都の大学病院に小児科医の卵として勤 めておりますが、

年明け4月より札幌の総合病院で勤務することになりまし た。

 

 

その病院への挨拶と父のお墓への報告を兼ね、

おそば屋さんにはなりま せんでしたが、

京都の銀行に勤める弟と相談をしまして、

今までの人生の中 で最高の贅沢を計画しました。

 

 

それは大晦日に母と3人で札幌の北海亭さん を訪ね、

 

3人前のかけそばを頼むことでした」  うなずきながら聞いていた女将と主人の目から

どっと涙があふれ出る。

 

 

入 口に近いテーブルに陣取っていた八百屋の大将が

そばを口に含んだまま聞い ていたが、

そのままゴクッと飲み込んで立ち上がり

「おいおい、女将さん。何してんだよお。

 

10年間この日のために用意して 待ちに待った

『大晦日10時過ぎの予約席』じゃないか。

 

ご案内だよ。ご案 内」  八百屋に肩をぽんと叩かれ、

気を取り直した女将は 「ようこそ、さあどうぞ。 おまえさん、2番テーブルかけ3丁!」

 

 仏頂面を涙でぬらした主人、 「あいよっ! かけ3丁!」

 期せずして上がる歓声と拍手の店の外では、

 

 

先程までちらついていた雪も やみ、

新雪にはね返った窓明かりが照らしだす『北海亭』と書かれた暖簾を、

 ほんの一足早く吹く睦月の風が揺らしていた。

 

出典:一杯のかけそば(栗良平、1988年、栗っ子の会)



直接、Copyさせていただきました。

 

これを昔読んだ時にも、今も涙があふれる。

 

こんな感動の時代がくるのだ。

 

では、、、

 

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